銀時計





くるくるまわる くるくるまわる
銀の時計が くるくるまわる












私は腰掛けて、ベッドの上の彼女を見た。
「どうしてこんなことしたの?皆心配してたわ。」
彼女は何も答えない。
私は彼女をじっと見る。
ぽろり、と彼女の瞳から涙が零れた。
私も悲しい顔をして彼女を見つめる。
彼女は泣きやまない。

ああ、どうしよう。彼女を泣かせてしまった。





銀時計の針は音に合わせて逆に回る。
時が、遡っていく。





私は腰掛けてベッドの上の彼女を見た。
「髪が伸びたね。」
彼女が答える。
「ええ、そうね…。」
私は微笑んで髪に手をやる。
「梳いてあげようか。」
彼女は何も言わない。
手で髪を梳くと、彼女の目から涙が溢れた。
「彼もよくこうしてくれた。」
そうだ、これは彼の癖だった。

ああ、どうしよう。彼女をまた泣かせてしまった。





銀時計のナイフのように鋭い針は音に合わせて逆に回る。
時が、遡っていく。





私は腰掛けてベッドの上の彼女を見た。
彼女はじっと私を見ている。
そういえばここはどこだったろう。
私が首を傾げると、彼女が微笑んだ。
「嫌ね、ここは病院じゃない。」
そういえば病院だった気がする。
「あなたはどうしてここにいるの?」
彼女は寂しそうに目を逸らして微笑んだ。
「彼が、いなくなってしまったから。」
私はまた軽く首を傾げる。
「どうして?」
彼女の微笑みが強ばった。
いけない、と思った時には彼女は目を見開いて私を見ていた。
「彼が、私じゃなくあの女を選んだから。」
大きな目から、涙が落ちた。

ああ、どうすれば彼女を泣かせずに済むの?





赤く染まった銀時計のナイフのように鋭い針は音に合わせて逆に回る。
時が、遡っていく。












彼女の涙が枯れるまで

 私は、同じ時を繰り返し続ける。



















病室の前でスーツの男と白い制服の女が話をしている。
「具合はどうです?」
「相変わらずです…。時計も離そうとしません。」
「あれも証拠物件なんですけどね…。」
「一度、壊れて針が動いていないから修理しましょうって言ったんですけど、音がするから壊れてないわって、聞いてくれなくて…。」
男が頭を振り、女が溜息をつく。
「物的証拠だけでも送検は可能だろうけど…本人があの状態じゃ、無理かなあ。」
二人はそっと病室の中を覗き込み、少女を見た。
少女は、いつものように、手鏡の中の誰かと話をしていた。




――――おしまい


少女が繰り返す「時」から解放されるのは、全てを認識した時かな…と思います。


はと部屋
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送